はじめに
昨日、岡山で心療内科クリニックを開業する先生がこんな記事をアップして、Twitterなどで話題になっていました。
記事のタイトルに「うつ病」と書かれていますが、その他の精神疾患に伴う「抑うつ状態」の解消にも役立つ内容が掲載されています。
過去のうつ病治療では薬物療法と、ただゆっくり休養を取っていれば回復するという休養療法が主体でしたが、社会復帰などを目標にする場合、休養のみならず、回復期には、規則ただしい生活リズムを保ち、適度な負荷をかけてリハビリ的に行動を活性化させるトレーニングを行うことで、回復を促進できたり、再発を予防できることがわかって来ました。
ゲーミフィケーションによる動機づけで実践する有酸素運動
紹介した記事では、Ingressというゲームが次に挙げる3つの内容に役立つことが解説されています。
- 外出するきっかけ
- 有酸素運動
- ダイエット
1. 外出するきっかけ
ゲームというと、家に引きこもって遊んだり、スマホの画面だけで完結したりするイメージがありますが、IngressはスマホのGPS機能を使いながら、実際に街を歩くことによってプレイします。
「光療法」というものがあり、うつ病や不眠症の改善に「光を浴びる」ことが良いとされています。太陽光を浴びながら遊べるIngressが、体内時計を正しくリセットしてくれることは容易に想像できます。
![]() [光療法]フィリップス ・エナジーライト Philips Energ... |
2. 有酸素運動
有酸素運動とは、ウォーキングやサイクリングなど軽い負荷で時間をかけて行う運動を指します。
有酸素運動が脳にどのような影響を与えるかというメカニズムはまだ解明されていないようですが、うつ病などのメンタル改善や認知症の予防に効果があると言われています。
Ingressでは、複数の「ポータル」(石碑や駅など)と呼ばれる場所に足を運び、これを線で結ぶことによって得点を競うので、ゲームを楽しみながら有酸素運動を行うことができます。
3. ダイエット
Ingressが「ダイエットに最適」というのはよく聞く話で、これを推奨する医師も自分の体験をこう語っています。
はじめて2週間で、今まで10年間超えなかった目標の体重が5kg減った時には、このアプリの凄さに驚くと同時にモチベーションが続かず実現できなかったダイエットを簡単に実現してしまう、このゲーム自体の面白さと中毒性に心底惚れ込んでしまいました。
つまり、ダイエットや有酸素運動といった忍耐力を必要とする活動のモチベーション(動機づけ)に、Ingressのゲーミフィケーション*1を取り入れたというわけです。
無課金という特徴が生み出すIngressの魅力
Ingressが既存のゲーム愛好者だけでなく、多くの人に支持される理由に無課金であることも特徴的でしょう。
課金制による収益確保を維持しているオンラインゲームは、無料でプレイすることもできますが、お金を払うことによって有利(より簡単に時間をかけずに)にゲームを運ぶことができる仕組みになっています。
Ingressは無料で検索エンジンを提供していることで有名なGoogle社が運営しており、ゲームアプリ内での課金制度がありません。つまり、ゲーム展開はお金以外の要素に左右されるとこいうことです。
一つは、前の項で説明したように「自分が実際に街を歩く」という行為をひたすら積み重ねることが基本なので、これを有料課金*2でショートカットできません。
他者とのコミュニケーションがゲームを有利に運ぶコツ
それでは、うつ病患者だけでなく多忙な社会人にもハイレベル*3なプレイヤーが大勢いる秘密をここで説明しましょう。
前述したとおり、Ingressは課金制ではないのでゲーム上で自分が強い戦者となるために必要なアイテムなどを購入できません。
ですが、これは「お金では解決できない」というだけのことであり、仲間から「バースター」という武器や、自分で訪れることが難しいポータルの「キー」をもらうことができます。
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Ingressでは、プレイヤーを「エージェント」と呼び、エンライテンド(緑)とレジスタンス(青)の2つの陣営に分かれて、得点を競います。自陣営の勢力を拡げるために、仲間のエージェント同士がcomm(アプリ内のチャット)やGoogle+などを使って、連携を強くする活動を行っています。
私自身、Ingressに登録して間もない頃、同じ街に住む先輩エージェントがよく助太刀にかけつけてくれました。家に引きこもりがちな私ですが、「◯◯神社ポータルが敵に落とされたので奪回に協力してください」という連絡をもらうと、今でも喜んで加勢に馳せ参じます。
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このように人と交流することで、よりゲームを楽しめるIngressは中毒性があり、仕事を休んで海外のポータルまで遠征する人が出るほどです。
ですが、裏を返すと「他者とのコミュニケーション能力が要となるゲーム」であるとも言えます。
もちろん、他のエージェントと関わりを持たないソロプレイでIngressを楽しんでいる人もいますが、陣営内外での揉め事がしばしば見受けられ、エージェント同士の人間関係に疲れて、ゲームから下りる人もいます。
このような側面から、人との関係性において生来の困難を抱えている発達障害や、ストレス耐性が低くなっている"うつ病"の人にとって、Ingressは「副作用のリスクがある良薬」と評価できるかもしれません。