はじめに
放射脳と闘う大規模アカウント*1として知られるPKA先生のツイートで《「統合医療」情報発信サイト》を知りました。
厚労省が統合医療の情報サイトを作ったんですね。批判もあるようですが、こういうのを受けたい人は公的にちゃんとした情報が出てなくても受けますし、公的な情報が出されることについては私は支持します。あかんやつは「こんなもん効かねぇよ」的に結構ハッキリ書いてありますし。
— Philip K. Anzug (@PKAnzug) 2015, 4月 10
私は「ホメオパシーは役には立たないけど直接的害もない」と思ってましたが、実際にはちゃんと薄まってなくて直接的に有害な場合もあるとか、私も勉強になりました。 http://t.co/vkf1PJ7IJX
— Philip K. Anzug (@PKAnzug) 2015, 4月 10
ホメオパシーとは
ホメオパシーというのは、西洋起源の自己治癒力を高める代替療法のことで、日本では山口新生児ビタミンK欠乏性出血症死亡事故 - Wikipediaで、これを知った人も多いのではないでしょうか。
植物などを希釈したレメディと呼ばれる砂糖水や砂糖玉をなめると、「気持ちが落ち着く」などという話*2を耳にし、私も試してみたことがあります。
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たしかに、疲れている時に糖分をとると「ほっとする」ことがあります。なので、レメディを摂ることになんらかのメリットがあるのかもしれませんが、単なる砂糖にすぎません。
例えば、 熱の症状に使うレメディー「ベラドーナ」の作り方は、摂ると高熱を発するベラドーナという花をまずアルコールに浸け、
...(略)...
これ直径5㎜にも満たない砂糖玉に染みこませたものがレメディーです。砂糖以外の物質は入っていません。
ホメオパシーとは|日本ホメオパシー医学協会
同じ砂糖玉なら、北海道土産にいただいた六花のつゆの方が美味しくて、目を楽しませてくれるので、個人的にはこっちを推します(笑)。
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検索上位に出なくなっても「統合医療」情報発信サイトを見てね
それでは、さっそく2014年3月28日に開設されたというこのサイトを見てみましょう。
▼「統合医療」情報発信サイト 厚生労働省
http://www.ejim.ncgg.go.jp/
スマホでの閲覧は難しい
まず、スマホでこのサイトを見てみようと思ったのですが、モバイル対応していないことがわかりました。
モバイルフレンドリーテストの結果に表示されているスクリーンショットでわかるように、パソコン用のWebページしか用意されていません。
検索順位と情報の信頼性
このサイトでは、「情報を見極めるための10か条」を並べており、ともするとネットにあふれている不確かな情報にふりまわされがちな私たちに、こんな警鐘を鳴らしています。
ネット検索をするだけで、たくさんの情報にふれることができます。でも、残念ながらネット情報には、信頼できるものから怪しいものまで、さまざまな情報が混在しています。また、ネット検索で上の方に出てきた情報が信頼できるとは限りません。
来週早々には、この「統合医療」情報発信サイトをはじめとするモバイルフレンドリーでないページの検索順位がガクンと落ちることを承知の上での親切心から発した貴重なアドバイスとして受け止めることにしました。
「統合医療」情報発信サイトの見かた
さて、嫌味なことばかりいっていてもしょうがいないので、実際にこのサイトの中を覗いてみましょう。
まず、画面上部に対象者別に色分けされた3つのメニューがあります。
- 一般の方へ
- 医療関係者の方へ
- 総合医療関連資料
知りたい内容が具体的に決まっている方は、画面右上のボックスから検索するか、[総合医療関連資料]に切り替えて、疾患ごとに分類されたメニューから情報を探すことができます。
[一般の方へ]メニューは、前述した「情報を見極めるための10か条」のように、そもそもこのサイトにはたどりつくことがないであろう情報リテラシーが低めの方向けのお説教臭い内容とリンク集のみなので、読む価値はありません。
一読すべきは、[医療関係者の方へ]メニューにある[コミュニケーション]という項目で、こちらはかなりの文量を割いており、このサイトの肝となる部分と思われます。
統合医療って、もしかして混合・・TP・・・?
医療スタッフと患者とでオープンに話し合うことで、患者は全体的に統合された医療を受けられるだけでなく、通常の治療法との相互作用から生じるリスクを最小限にすることができます。受けている補完療法について医療スタッフに伝えることで、患者はより安全で効果的な健康管理が可能となります。
背景説明 | コミュニケーション | 医療関係者の方へ | 「統合医療」情報発信サイト
なるほど!私は「統合医療」という言葉をこのサイトで初めて知ったのですが、要するに普通の病院で受ける標準医療とは別に、患者が勝手に飲んでいるサプリなどとの飲み合わせが悪くて、副作用を引き起こしたりするリスクを防ぎたいというわけですね。
統合失調症という精神疾患の「いったない何が統合されていないのか?」がよくわからないように、統合医療と聞いてもピンときませんでした。
さらに、リンク先にあるNCCIH(国立補完統合衛生センター:米国)の原文をあたると、統合医療というこの聞きなれない単語と解説がUSのサイトからの直訳だということを知りました。
Talking not only allows fully integrated care, but it also minimizes risks of interactions with a patient’s conventional treatments. When patients tell their providers about their use of complementary health practices, they can better stay in control and more effectively manage their health.
Backgrounder | NCCIH
ここまで読み進めた時点でやっと気が付きました。
もしかして、これって「代替医療には得体のしれないものあるから、みんなも気をつけてね」ということを伝えたいサイトではなく、「TPPに参加したいから混合診療を認める流れを作りたいし、医療費も削減したいし」ってこと?
![]() TPPは国民医療を破壊する 韓米FTAに学んだ医療者からの訴え |
2011(平成23)年度から厚生労働省は『「統合医療」のあり方に関する検討会』を開催し、統合医療の現状や問題点について議論を重ねてきました。
本事業の背景 | 「統合医療」とは? | 医療関係者の方へ | 「統合医療」情報発信サイト 厚生労働省 「統合医療」に係る情報発信等推進事業
どんな議論があったのかは、リンク先の「統合医療」のあり方に関する検討会 |厚生労働省に公開されているのですが、PDFによる議事録だけなのでいまひとつよくわかりません。
「統合医療」は多種多様であり、かつ玉石混淆(ぎょくせきこんこう)とされている。また、現時点では、全体として科学的知見が十分に得られているとは言えず、患者・国民に十分浸透しているとは言い難い。
うん、たしかにそうだと思う。
ネットを見ても、「がんを栄養療法で完治させる」とか「サウナで向精神薬を解毒する」といった"石"の方の代替療法にはまってしまった人の愚かさしか伝わってこないので、標準医療と統合できるような"玉"に関する情報は皆無といってもいいでしょう。
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このような状況下で「統合医療」を推進していくためには、 患者・国民の信頼を得ることが重要であり、まずは、安全性・有効性等が適切な形で確立されなければならない。
え!そこでなぜ推進?
TPP交渉が最終局面を迎えつつあるこの時期にリリースされた《「統合医療」情報発信サイト》の真意に疑念を抱くことは、うがちすぎでしょうか?
もう情弱とは呼ばせない!「ヘルスリテラシーが低い方」
「統合医療」の他に「ヘルスリテラシー」という言葉があることをこのサイトで知りました。
一般的にネットやパソコンなどを使いこなせる技量を「情報リテラシー」といいますが、その中で健康や医療に特化したものを「ヘルスリテラシー」と呼ぶそうです。
日本の成人向けに作成されたヘルスリテラシー尺度が公開されているページはこちらです。
ヘルスリテラシー尺度(HLS-14):ヘルスリテラシーを手がかりにして | コミュニケーション | 医療関係者の方へ | 「統合医療」情報発信サイト
ヘルスリテラシー尺度
ヘルスリテラシーではまず、「患者が治療に取り組む段階」を以下の3つに分類しています。
段階 | 能力 |
---|---|
機能的ヘルスリテラシー | 読み書きといった基本的な能力で、病院からもらった説明文などを読める |
伝達的ヘルスリテラシー | 自分の病気について、調べたり理解したりする |
批判的ヘルスリテラシー | 病気や治療法に関して、得られた情報に疑問を抱いたり、批判的に吟味したりする |
段階ごとに、その「患者が持つリテラシーを評価する指針」が示されています。例えば、批判的リテラシーは次の4つの評価が設定されています。
評価 | 能力 |
---|---|
11 | 自分にもあてはまるかどうか考えた |
12 | 信頼性に疑問を持った |
13 | 正しいかどうか聞いたり調べたりした |
14 | 病院や治療法などを自分で決めるために調べた |
ヘルスリテラシーをもとにした患者対応例
ヘルスリテラシー尺度の定義にもとづき、患者と具体的にどうコミュニケーションをとればよいのかという会話例も掲載されています。
下図は、[批判的リテラシー]が[自分にもあてはまるかどうか考えた](HLS-14の11)に該当する患者から「先生にお話いただいた治療を選びたい」という言葉を引き出している寸劇です。
「情報収集に積極的なタイプの患者Aさん」ヘルスリテラシーを考慮したコミュニケーションの例 | 医療関係者の方へ | 「統合医療」情報発信サイト
なお、HLS-14は1〜14のレベルの中から一つ選ぶのではなく、一人の患者であってもその会話内容から、伝達的リテラシーは[9 : 病気についての自分の意見や考えを医師や身近なひとに伝えた]で批判的リテラシーは[12 : 信頼性に疑問を持った]のように、ケースバイケースで評価します。
患者から医師に話しておいた方がよい内容
『TIME TO TALK(話し合いましょう)』[患者向け]| コミュニケーション | 医療関係者の方へ | 「統合医療」情報発信サイト
上記のページは、患者向けの内容で「医療スタッフに伝えるべき内容」として、以下のポイントをあげています。
- 既往歴や薬の名称などの一覧をあらかじめ書き出しておく
- 処方薬だけでなく、ハーブやサプリなどを含めた市販品についても知らせる
- これらについて、スタッフから聞かれる前に自発的に話す
- 検討中の補完療法があれば、その安全性や有効性について質問する
これらに加えて、前の項で取り上げた自分のヘルスリテラシーが正確に伝わるような話し方が患者側にも必要かなと私は思いました。
承前)精神科の薬のことあまりよく知らなかった頃に、処方された薬の名前でググったら統合失調症で使われるものだとわかり、とてもショックを受けたことがある。今どき、誰だってネットで薬とか自分の病気のこと検索するんだから、先に「うつ病にも効く」とか説明してほしいよね。(続く
— kukkanen (@kukkanenjp) 2015, 4月 1
承前)だいたいの人は、薬の製品名をググって検索上位のページをさくっと読む程度のリテラシーしかなく、どんな症状に適用があるとか、便宜上つけた診断名が必ずしも真理ではないとか、そこまで読み解くはずない情弱なんです。だから、標準医療以外の何かを売りつけたい輩のカモになるのは必然的。
— kukkanen (@kukkanenjp) 2015, 4月 1
今の主治医は私の伝達的リテラシーが"6"ではあるものの、"8"ではないことを把握しているので、「◯◯は、ネットなどに◯◯と書かれていることがあるけれど」と前置きをした上で治療方針を説明してくれます。
評価 | 能力 |
---|---|
6 | いろいろなところから情報を集めた |
7 | たくさんある情報から自分が求めるものを選び出した |
8 | 自分が見聞きした情報を理解できた |
9 | 病気についての自分の意見や考えを医師や身近なひとに伝えた |
10 | 見聞きした情報をもとに実際に生活を変えてみた |
パソコンの操作方法などをたずねる掲示板で、こんな質問をしてもなかなか回答がつかないものです。
タイトル : 教えてください
質問内容 : いろいろ試しましたが、ソフトが起動しません。
でも、自分が何をどうやって調べたのか、どこまで理解できたのかが伝わる文章なら、的確なアドバイスをもらえる確率が高まります。
タイトル : Excel2013が起動しません
質問内容 : 「セーフモードで起動しますか?」というエラーが表示されて、Excelを起動できなくなりました。「セーフモード」で検索して、公式ヘルプを読みましたが、パソコンを使い始めたのもつい最近のことで内容が理解できずに困っています。
医療不信から、科学的根拠の乏しい代替医療に飛びつく前に、医師とのコミュニケーション内容を見なおした方が良さそうだなと感じました。
![]() 学生と健康 若者のためのヘルスリテラシー |
ところで、肝心なエビデンスとやらはいずこに?
《「統合医療」情報発信サイト》のトップページには、こんな掲示があります。
私たちが、民間療法や代替療法と呼ばれるものを検討する上で、参考になるようなエビデンス(科学的根拠)を紹介してくれるはずなんですよね?このサイトは。
たぶん、リンク先にある英語の論文や、[和訳]ボタンをクリックして見ることができる
《Minds医療情報サービス》の中でエビデンスが示されているということなのかと思いますが、医療の専門家ではない一般人が読んで参考になるような情報でないことは確かです。
▼2015年4月13日追記: その後、サイト内にエビデンス情報が見つかりました!詳しくは以下のリンクで。
ヨガ
平成24-26年度厚生労働省科学研究費補助金「地域医療基盤開発推進研究事業」(研 究代表者:岡孝和)によって作成されたヨガのエビデンスレポート集です。
エビデンスレポート集というページがあり、申し訳程度に掲載されたと思しき3件のうち、ヨガに関するもののリンク先を見に行ってみました。
サイト名 | 心療内科医 岡孝和のホームページです。 Welcome to Dr. Takakazu Oka's Homepage |
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副題 | 現代医学と心身医学、東洋医学の統合と実践を目指す一心療内科医です |
URL | http://okat.web.fc2.com/page02_04.html |
たしかに、厚生労働省の事業で行っている「統合医療」情報サイトからリンクされていなければ、アダルトサイト御用達のFC2にホスティングされているこのページの信頼度を低く評価する人もいるでしょう。
そういう意味では、「統合医療」情報サイトの存在価値も多少はあるのかな・・・(謎)
*1:フォロワーが多く、影響力があるアカウントのこと。参考 : 字数制限があるTwitterでよく使う略語や慣習 - kukkanen’s diary