はじめに
昨日、精神の障害年金に関する議事録にあった発言を抜粋してツイートしたところ、たくさんの方から反響がありました。
“障害年金は働くと支給停止になるというような声が、診断書に就労欄が設けられて以降、顕著に聞かれるようになっており、こうしたことが広まると障害者の就労を阻害する” / “精神・知的障害に係る障害年金の認定の地域差に関する専門家検討会…” http://t.co/k4dn7PkDJc
— kukkanen (@kukkanenjp) 2015, 4月 16
リンク先は、厚生労働省の公式サイト内にある以下のページです。
せっかくなので、この議事録の内容をもう少し掘り下げてみたいと思います。
専門家検討会の概要
まず、この検討会が設けられた経緯として「精神・知的障害年金の審査に地域差があること*1」が述べられています。
障害基礎年金について新規に申請を受けて決定を行った事例のうち不支給と決定された件数の割合が都道府県間で異なることから、各各都道府県間における障害基礎年金の認定事務の実態を調査したところ、精神障害及び知的障害の認定において、地域によりその傾向に違いがあることが確認された。
その結果を踏まえて、精神障害及び知的障害の認定において地域差による不公平が生じないよう、等級判定のガイドラインとなる客観的な指標や就労状況の評価のあり方等について検討する必要がある。
具体的な検討事項は以下の3点です。
- 精神・知的障害の等級判定のガイドラインとなる客観的な指標
- 精神・知的障害の就労状況の評価のあり方
- その他
障害年金の等級を判定する際の基本的な目安
厚生労働省の担当官の言葉をまとめると、障害年金の等級は以下の基準で判定されることになっており、これは精神に限らず身体の障害でもほぼ同じことが言われています。
等級 | 判定基準 |
---|---|
1級 | 日常生活が不能 |
2級 | 日常生活に著しい制限 |
3級 | 労働が著しい制限 |
(大窪障害認定企画専門官)
精神の障害の程度は、その原因、諸症状、治療及びその病状の経過、具体的な日常生活状況等により総合的に認定するとあり、各等級の障害状態については、日常生活の用を弁ずることを不能ならしめる程度のものを1級、日常生活が著しい制限を受けるか又は日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度のものを2級、労働が著しい制限を受けるか又は労働に著しい制限を加えることを必要とする程度の障害を残すもの、及び労働が制限を受けるか又は労働に制限を加えることを必要とする程度の障害を有するものを3級に該当するものと認定するとなっております。
精神・知的障害に係る障害年金の認定の地域差に関する専門家検討会(第1回)議事録(2015年2月19日) |厚生労働省
上記に抜粋したように大窪専門官が読み上げている資料は、《精神・知的障害に係る障害年金の認定の地域差に関する専門家検討会審議会資料 |厚生労働省》にPDFで公開されています。
▼これらの資料を私が読んで、まとめた記事はこちらです。
平成23年の「精神・知的障害に関する認定基準及び診断書の改正」で何か変わったのか?
平成23年の制度改正の背景は以下のように説明されています。
(大窪障害認定企画専門官)
平成22年の障害者自立支援法及び児童福祉法の一部改正によりまして、発達障害が同法の対象として明確に定義されたことや、精神障害者保健福祉手帳制度の一部改正によりまして、発達障害及び高次脳機能障害の症状や状態像を適切に把握するため、判定基準及び診断書が改定されたことを踏まえまして、年金についても見直しを行うこととしたものでございます。
精神・知的障害に係る障害年金の認定の地域差に関する専門家検討会(第1回)議事録(2015年2月19日) |厚生労働省
「所得額に関係なく障害年金の支給が停止される」問題点の指摘
平成23年の改正当時の認定医から出た意見が、《平成23年及び平成25年の精神・知的障害に関する認定基準及び診断書の改正について(PDF)》に掲載されています。
障害年金の支給要件には未就労というのは記載されておらず、所得が一定額を超えない限り、減額ないし支給停止にはならないはずであるのに、現状は所得額には関係なく支給停止等が行われており、問題があるというご意見です。
精神・知的障害に係る障害年金の認定の地域差に関する専門家検討会(第1回)議事録(2015年2月19日) |厚生労働省
上記にある「支給停止"等"」は、障害基礎年金2級の受給停止の他に、2級から厚生障害年金3級への格下げが含まれるものと思われます。
平成23年の改正で診断書に追加された「発達障害」関連症状欄
左下の「ア 現在の病状又は状態像」欄のローマ数字8番目にある「発達障害関連症状」が該当箇所になります。平成23年改正前の診断書で同じ場所を見ていただきますと、この項目が載っていませんので、新しく改正になったものでございます。
精神・知的障害に係る障害年金の認定の地域差に関する専門家検討会(第1回)議事録(2015年2月19日) |厚生労働省
現在利用されている障害年金申請用の診断書の表面の左下に、発達障害関連の項目があります。
- 相互的な社会関係の質的障害
- 言語コミュニケーションの障害
- 限定した常同的で反復的な関心と行動
障害年金の診断書(現行・平成23年改正前・平成25年改正前)PDF
平成23年の改正で診断書に追加された「就労状況」欄
就労状況を十分に確認するため、「現症時の就労状況」欄を設けることとしたことでございます。こちらは、平成23年の改正前の診断書では同じ欄が設けられてはおらず、就労状況を書く場合には、「エ 社会復帰施設、グループホーム、作業所等の利用状況、期間等」の欄に記載するようになっておりました。
精神・知的障害に係る障害年金の認定の地域差に関する専門家検討会(第1回)議事録(2015年2月19日) |厚生労働省
この改正が反映された診断書裏面には、就労状況の詳細を記入する以下の項目があります。
項目 | 記入欄 |
---|---|
勤務先 | 一般企業/就労支援施設/その他 |
雇用体系 | 障害者雇用/一般雇用/自営/その他 |
勤続年数 | *年*ヶ月/仕事の頻度(週に・月に*日) |
ひと月の給与 | *円程度 |
仕事の内容 | |
仕事場での援助の状況や意思疎通の状況 |
障害年金の診断書(現行・平成23年改正前・平成25年改正前)PDF
障害年金受給者数の増加と関連データ
障害年金問題を考える上で、実際の受給者数などの推移も見ておいた方がいいかもしれません。
精神・知的障害の年金受給者数の推移
(和田事業管理課給付事業室長補佐)
平成15年度から平成24年度までの障害年金の受給者数の推移であります。ここ10年間で28万人ほど増加をしております。
2ページ目は、障害基礎年金の受給者数の推移でございます。平成16年度より隔年で等級別の表にしております。1級の受給者数についてはほとんど変化がございませんけれども、2級の受給者数については年々増加傾向にあります。
3ページ目は、障害厚生年金の受給者数の推移です。こちらも1級と3級はわずかに増加しておりますが、2級については大幅な増加傾向にあります。
精神・知的障害に係る障害年金の認定の地域差に関する専門家検討会(第1回)議事録(2015年2月19日) |厚生労働省
精神障害に限らず、身体の障害を含めた障害年金受給者数の推移を示すグラフです。
障害年金の受給者数等に関する統計資料(PDF)
精神・知的障害の等級別受給者数の推移のグラフはこちらです。
障害年金の受給者数等に関する統計資料(PDF)
作業所と障害者雇用の増加
「作業所」と呼ばれる障害者向けの就労施設や、一般企業における障害者枠など、年金受給対象となる障害者の雇用環境が変化していることにもふれています。
(和田事業管理課給付事業室長補佐)
福祉施策における対応ですけれども、就労型障害福祉サービスにおいて3つの事業形態がございまして、「就労移行支援事業」と「就労継続支援A型事業」「B型事業」でございます。表の下のほうに、ちょっと小さい字で恐縮でございますけれども、事業所数、利用者数の年度推移があります。ご覧いただきますと、5年ほどの間に大幅に増加していることがうかがえます。
...(略)...
下の表に平均工賃がございまして、平成25年度の平均額では就労継続支援A型が月額6万9,458円、B型が月額1万4,437円というふうになっております。
...(略)...
精神障害者、知的障害者の雇用者数も年々増加傾向にあることがうかがえます。平成25年度の「障害者雇用実態調査」の結果によりますと、下のほうですけれども、民営事業所に雇用される知的障害者の平均賃金は、30時間以上の労働時間の方では13万円、16ページにありますけれども、精神障害者の平均賃金は、30時間以上の労働者時間の方では、精神障害者の障害の程度や疾病ごとに異なりますけれども、全体では19万6,000円というようになっているところでございます。
精神・知的障害に係る障害年金の認定の地域差に関する専門家検討会(第1回)議事録(2015年2月19日) |厚生労働省
A型作業所の月額平均賃金(※雇用契約を結ぶので時間給当たりの最低賃金は保障される)は下がっていますが、これは逆にいうと「低賃金(短時間)で就労できる機会が増えた」ということなのではないでしょうか。
調査年度 | 平均月給 | 月給4万円の人の割合 |
---|---|---|
平成18年 | 10,1117円 | 約20% |
平成25年 | 69,458円 | 約45% |
手帳制度及び就労支援に関する資料(PDF)
不支給割合が高い県と低い県における就労状況の評価
日本年金機構が実施した不支給割合に関する調査、いわゆる「障害年金の地域差問題」で得られたデータと審査にあたる認定医へのヒアリング内容が公開されています。
(向山日本年金機構給付企画部長)
診断書における就労欄の記載のある・なしで区分をして比較しております。それぞれの結果は不支給の割合ごとに出ておりますけれども、全体で見ましたときに就労欄に記載のあるものの等級非該当割合は12.5%、記載のない場合が11.9%ということでございまして、結論的にはこの大きな差異はなかったと。かつ不支給割合が高い県、低い県を比較してみましたときにも特に大きな、特段の傾向は見られなかったということでございます。
...(略)...
4点目の就労していた場合の重視するポイントでございますけれども、不支給割合が低い県では勤続年数を重視しているというご意見がございました。
長い場合にはそれなりに考慮するが、一般就労であったとしても1年未満ということであれば、継続して就労しているとはみなさないというご意見でございます。
不支給が割合高い拠点におきましても同様に勤続年数と頻度を重視しているというご意見が多かったと。それから、一般就労と就労支援施設との違いというのは当然ですけれども、考慮してご判断をいただいていると、これは共通しているというように考えております。
精神・知的障害に係る障害年金の認定の地域差に関する専門家検討会(第1回)議事録(2015年2月19日) |厚生労働省
下表は、不支給割合が低い順に並べられた都道府県別の「就労の有無」による決定件数です。
※「現症時の就労状況」(診断書裏面)への記載の有無で、一般雇用、障害者雇用、就労支援施設、自営等が含まれます。
障害基礎年金の障害認定の地域差に関する調査(PDF)
障害年金における就労状況の評価を今後どうすべきなのか?
以上の背景をふまえて、「就労に関する情報は必要ではあるものの、診断書作成や受給審査に際して重要なのは日常生活の能力の判定である」という意見がまとめられたという報告を、検討会の冒頭で厚生労働省側から提示しています。
(大窪障害認定企画専門官)
1点目は障害年金は働くと支給停止になるというような声が、診断書に就労欄が設けられて以降、顕著に聞かれるようになっており、こうしたことが広まると障害者の就労を阻害することにもなりかねないということでございます。
また、2点目の理由ですけれども、本人は労働時間や収入額を論点にして障害認定をされると、障害年金を用いた自立した暮らしが難しくなってしまう。働けているから障害が軽快しているのではなく、障害年金を活用することによって障害を一定程度客観的に受容でき、それによって周囲の支援を積極的に得られた結果、一定額の収入が得られるようになったと捉えるほうが的を射ているとなっております。したがいまして、診断書作成や障害認定において労働は日常生活能力を把握するための貴重な情報源にはなり得るものの、着眼すべきは日常生活であることを共通理解とすることが大切だというご意見になっています。
精神・知的障害に係る障害年金の認定の地域差に関する専門家検討会(第1回)議事録(2015年2月19日) |厚生労働省
この意見を受けた専門家による議論が続きますが、長くなるので記事を分割しました。続編はこちらです。
*1:都道府県別の障害基礎年金不支給率に約6倍の差があります。参考 : 精神障害年金の地域差問題に関する厚生労働省の資料を発達障害当事者目線で読んでみる - kukkanen’s diary