kukkanen’s diary

障害年金で暮らす片づけられない女の日記

障害年金は働くと支給停止になるのか? -専門家検討会の議事録から-(その2:審査認定医が語る具体的な評価基準)

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はじめに

この記事は、障害年金問題に関する議事録について、まとめたものです。

専門家による検討会の冒頭で、厚生労働省の担当官が問題の背景や検討課題となるデータを示した部分は、「その1」となる以下の記事をお読みください。

www.kukkanen.tokyo

《精神・知的障害に係る障害年金の認定の地域差に関する専門家検討会開催要綱(PDF)》に、この検討会の概要及び、構成員として参加している専門家の名簿が公開されています。

構成員所属及び役職
青木 聖久 日本福祉大学 福祉経営学部教授
青嶌 和宏 ワコウクリニック 院長
有井 一朗 独立行政法人地域医療機能推進機構 神戸中央病院 精神科部長
安西 信雄 帝京平成大学大学院 臨床心理学研究科長・教授
岩坂 英巳 奈良教育大学 教授・特別支援教育研究センター長
栗原 寛治 社会福祉法人広島厚生事業協会 府中みくまり病院 参事
後藤 雅博 医療法人恵生会南浜病院 院長
富岡 秀文 医療法人社団浅ノ川桜ヶ丘病院 名誉院長
西村 浩 厚木市立病院 精神科部長

以下、引用部分はすべて厚生労働省の公式サイト内にある議事録からです。

www.mhlw.go.jp

「日常生活能力の程度」の評価(診断書裏右)

診断書の裏面に生活能力を数値で評価する欄があり、審査を担当する認定医である専門家がこれに言及しています。

口頭で述べられた内容だけだとわかりにくいので、引用文の後で図解します。

(有井構成員)

2級判定の目安は、やっぱり主に診断書の裏面に絡んでくることですけれども、生活と、厚生労働省の方がまとめてくださったデータにもありましたけれども、うちは高い県に含まれますけれども、それで生活能力判定の(1)から(5)の5段階評価で、まず軽いほうからの(1)と(2)の場合は2級を該当する方はまずないかなということを考えて、例外的にはその脳外の先生とかが書いてこられるような診断書が異常にADL評価が軽くても、かなり深刻な場合があったりするので、それを認めるときはありますけれども、例外的な話で。 一般の精神科医の先生方がADL(1)ないし(2)で持ってこられた場合には認めることはまずないと、(3)以降の(3)(4)(5)ですか。まあまあ、(5)となれば無論1級が、当然範疇に入ってくるので、そういう意味では、(3)あるいは(4)のADL評価を対象に2級は考えていっているかなというのが現状です。ただし、(3)であればほぼ認めているかというと、そこはそうでもないというようなところもあって、その場合は左枠の4段階評価、ABCD評価とでもいいましょうか、あちらのほうを見ながら、あるいはそれこそほかの症状、病歴、生活状況みたいなものも考えながら見ているというのが大体になります。

日常生活能力の"程度"と"判定"の違い

議事録では、「生活能力判定の(1)から(5)の5段階評価」と書かれていますが、これは診断書裏面の右側にある「日常生活能力の程度」を指していると思われます。

そして、左側にあるのが4段階による「日常生活能力の判定」です。

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ADL(Activities of Daily Living)とも呼ばれる「日常生活能力の程度」は、精神と知的のそれぞれに5段階の評価項目が並んでいます。

  1. 精神障害(病的体験・残遺症状・認知障害・性格変化等)を認めるが、社会生活は普通にできる。
  2. 精神障害を認め、家庭内での日常生活は普通にできるが、 社会生活には、援助が必要である。
    (たとえば、日常的な家事をこなすことはできるが、状況や手順が変化した りすると困難を生じることがある。社会行動や自発的な行動が適切に出来 ないこともある。金銭管理はおおむねできる場合など。)
  3. 精神障害を認め、家庭内での単純な日常生活はできるが、 時に応じて援助が必要である。
    (たとえば、習慣化した外出はできるが、家事をこなすために助言や指導 を必要とする。社会的な対人交流は乏しく、自発的な行動に困難がある。 金銭管理が困難な場合など。)
  4. 精神障害を認め、日常生活における身のまわりのことも、 多くの援助が必要である。
    (たとえば、著しく適正を欠く行動が見受けられる。自発的な発言が少な い、あっても発言内容が不適切であったり不明瞭であったりする。金銭管 理ができない場合など。)
  5. 精神障害を認め、身のまわりのこともほとんどできないため、 常時の援助が必要である。
    (たとえば、家庭内生活においても、食事や身のまわりのことを自発的にすることができない。また、在宅の場合に通院等の外出には、付き添いが必要な場合など。)

上記は、精神障害に関するもので、有井構成員は「3.や4.は2級の対象範囲だが、後ろの項目で説明する4段階評価やその他の内容から総合的に判断する」といったことを述べています。

「日常生活能力の程度」に関する構成員別の見解を表にまとめてみました。

※は例外事項に関する言及があるものです。

構成員(1)(2)(3)(4)(5)
有井 兵庫 2級※ 2級 1級
栗原 広島 - 2級 2級 2級 -
後藤 新潟 - 2級 2級 1級、2級 1級
西村 厚生 - - 2級、3級※ 2級 2級※

厚生障害年金と障害基礎年金の違い

初診日に加入していた年金の種類により、障害年金の受給額が異なります。

厚生障害年金の受給額試算

精神科を初めて受診した日に厚生年金に加入していたとします。「勤続年数20年、平均年収500万円、配偶者・子供なし」で受給できる障害年金を試算してみました。

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障害年金シミュレーター - 障害年金.net

初診日が国民年金だった場合は、下表にある障害基礎年金の金額しか受給できません*1

初診日が厚生年金だった人は、報酬額や加入期間数を元に*2障害厚生年金が決まり、障害基礎年金の受給額にこれが上乗せされます。

 基礎(年)基礎(月)基礎+厚生(年)基礎+厚生(月)
1級 975,125円 81,260円 約1,892,029円 約157,669円
2級 780,100円 65,008円 約1,513,623円 約126,135円
3級 - - 約727,123円 約60,594円

3級の有無

上の表でわかるように、障害基礎年金には3級の設定がありません

このことから、「2級にマッチしないと受給できない障害基礎年金と、3級の設定がある厚生障害年金では、2級の判定基準が異なるのでは?」と噂されていますが、それに関連したやりとりを議事録から拾ってみました。

(有井構成員)

西村先生にお伺いしたいんですけれども、生活能力(4)を中心に2級を判定していっておられると。

これはどうなんでしょう、障害厚生年金では以前からその水準でやっておられるということなんでしょうか。

それともだんだん変化して今は(4)を中心にした判定に至っているというふうなことなんでしょうか。

あるいはそれと、障害基礎と障害厚生は、基準に関してはちょっとギャップが出てくるような話にもなってくるような気もするんですけれども、そのあたりはどうお考えになられるかというふうなことについて、お願いします。

(西村構成員)

大体十数年やっていますけれども、大体先ほど申し上げたような感じだと思います。

(4)は基本ということで。

(安西座長)

いかがでしょうか。何か先生コメントございますか。

(有井構成員)

精神を3からというふうな、最初に言ったような。

(西村構成員)

厚生年金は3級で支給があるので、基礎で3級は出ないのとはやっぱり大きな差があるというのは昔から、それは伺っています。

(安西座長)

そうですか、そこら辺があるんですね。だから、基礎年金のほうが3級だと支給がないと、厚生だと支給があるということで、ベースラインというか基準の置き方が若干違うということですね。

(西村構成員)

結果的にそうなっているんだと思います。

(有井構成員)

そこからの差なんですかね。逆に障害厚生3級というのはADL評価でいくとどのあたりになっていますか。

(西村構成員)

先ほどの(1)から(5)のうち(3)が基本です。

もちろん(2)になることも、日常生活能力がすごく低い方で認められることもあるし、それから、やっぱり疾患の特性があるので、慢性的なものなのか、それともそうでもないのかとかいうことも考え合わせます。

それはやっぱり就労歴も、表面の学歴から就職の職歴なども勘案して、社会生活をどれだけ支障されているかというところがやはり総合的な判断に入ってくると思います。

診断書の学歴と職歴欄

障害年金申請用の診断書の表面には、以下の記述欄があります。

項目名記述内容
本人の発病時の職業 1行程度
発病から現在までの就学・就労状況 病歴含めて時系列で複数行
教育歴 乳児期から高校まで
(普通学級・特別支援等の区別)
その他(大学等)
職歴 複数行

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「日常生活能力の判定」の評価(診断書裏左)

有井構成員がABCD評価といっているのは、診断書の左側にある「日常生活能力の判定」のことで、日常のさまざまな場面を7つに分けて、それぞれを以下のように4段階で"できる""できない"を判定します。

(5)他人との意思伝達及び対人関係

他人の話を聞く、自分の意思を相手に伝える、集団的行動か行えるなど。

  1. できる
  2. おおむねできるが時には助言や指導を必要とする
  3. 助言や指導があればできる
  4. 助言や指導をしてもできない若しくは行わない

「日常生活能力の判定」欄の2級判定基準への言及を抜粋します。

(栗原構成員)

現行の診断書裏面2の、7つ項目ありますけれども、左の「できる」というのは、2級という視点では論外といいますかね、ですから、少なくとも左から2つ目の「助言や指導を必要とする」、「あればできる」、「できない若しくは行わない」、右もやはり明らかに1級のほうに傾く表現だと思いますので、だから、左から2番目、あるいは3番目を重視しているようにしております。

「日常生活能力の判定」が難しい理由

以下の赤字の部分で語られているように、主治医が患者の日々の生活の具体的な内容までは把握していないこともあるので、診断書を依頼する際は本人または家族などがこれらの点につき、正確な情報を伝える必要があるようです。

(安西座長)

有井先生がおっしゃるのはごもっともなんですけれども、現場の医者の意見としては、あんまりよう知らん……そういうことを言っては失礼かもしれないんですが、お書きになるドクターの中に、やはり生活状況をよく知らないとか、(1)か(2)に記載すると不採択の可能性高いよというのを余り考えずに、目の前の患者さんがこうだからこうじゃないかということで、それだけで書いていらっしゃる先生もいるのかもしれないと。要するに記載の精度の問題と、それから審査のほうの判定基準と、両方の面から考える必要があるかなという気がいたしましたけれども、いかがでしょうか。

そして、「日常生活能力の判定」の選択肢についての問題が指摘されています。

(富岡構成員)

一つには、日常生活の判定というのは基本的にはできないということと、できるということ、その真ん中に2つあるわけですね。

例えば、食事に関する能力の判定基準は以下の通りです。

(1)適切な食事

配膳などの準備も含めて適当量をバランスよく摂ることがほぼできるなど。

  • できる
  • 自発的できるが時には助言や指導を必要とする
  • 自発的かつ適正に行うことはできないが助言や指導があればできる
  • 助言や指導をしてもできない若しくは行わない

以下に例として挙げられている「カップラーメンなどを作ることを"できる"と評価していいのか?」という問題にぶつかります。

このようにすると、そういう判定よりも、これができるかあれができるかというような判定になっちゃうわけです。例えば適当な食事という問題になると、例えばできるとしてある。よく読んでみると、食事をつくっているのはラーメンにお湯を入れてそして食べている。それでも食事はできる、そういう考えがあるわけですね。そうすると、やっぱりこの日常生活能力の判定の評価の出てくる、我々が評価するときの難しさというのがあるんです。

診断書の内容に整合性がとれない時の確認

ここまで説明した診断書裏面の右側にある「日常生活能力の程度」と左側の「日常生活能力の判定」のバランスや、その他の項目との整合性がとれない場合に、診断書を書いた医師に質問書を出すなどの照会をするかどうかの対応は、都道府県により異なるようです。

3人の認定医の発言を抜粋します。

構成員診断書の内容確認
栗原 広島 明らかに整合性がない場合のみ質問書を出す
有井 兵庫 脳外科、小児科等精神科以外の医師が書いた診断書にはADLが低すぎないか?
後藤 新潟 若い先生が書いた診断書に対して教育的指導で

主治医が障害年金受給に該当しないと判断している診断書

(有井構成員)

そういうことですけれども、「変更しませんか」みたいな話では出すことは、割と時々はありますけれども、精神科医の場合にはそれは、精神科のドクターの場合にはしていないような気がしますね。

その理由は、この後の発言でわかります。

ADLが(1)ないし(2)で書いてこられる診断書では、もうそれは要らんのですわというふうに、ドクター側が判断していると考えています。

ADLというのは、診断書裏面右側にある「日常生活能力の程度」の5段階評価で、障害が軽いとされる上の2つのいずれかに丸がつけられているということです。

(1) 精神障害を認めるが、社会生活は普通にできる
(2) 精神障害を認め、家庭内での日常生活は普通にできるが、 社会生活には、援助が必要である。

いろいろな事情で診断書を提出しましたけれども、該当じゃないと思いますと仰っていると。そのような考えです。

私の周囲の話を聞く限りでは、患者側が障害年金の申請を申し出た場合に、主治医に「あなたの症状は、障害年金を受給できる重さ(種類)ではない」と診断書の発行を断られるケースが多いようです。

「そこを、なんとか・・・」とか「出すだけ出してみたい」とねばって、書いてもらった診断書はやはり審査に通らないということでしょうか。

有井構成員は、こう結論づけています。

多くは、やっぱり知的障害、発達障害の方じゃなしに、それ以外の一般の精神障害の(背景を有する)患者さんにそういう診断書が見られるような気がしましたけれども、主治医もこれは当たらないと見ているなと、わかりやすく思えるようなものもやっぱり出ているのは確かだと思います。どこの県でもそれはやっぱり落とすことになっているんじゃないのかなと思いますけれども。

単身生活の可否

診断書の裏面の左上に「日常生活状況」という欄があり、以下の項目を回答することにより、単身生活ができているのかの実態を判断します。

項目選択肢と記述内容
(ア)現在の生活環境 入院/入所(施設名)/在宅(同居者の有無)
(イ)全般的状況 家族及び家族以外との対人関係を具体的に

4段階による「日常生活能力の判定」の判断基準として、赤字で「単身で生活するとしたら可能かどうか」と書かれており、単身生活は実態と想定の両方で重要な評価基準となっていることがわかります。

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(有井構成員)

実は、資料5の高い県の意見の、18ページですか、右側、不支給率が高い県の中段の単身生活を重視しているというか、単身生活である場合にはもう一度その背景をチェックするようにしているというのも、これ僕もそのとおりと思っている点があって、単身の方の場合にはどのような経過でなったのかと、親御さんが高齢になって施設入所で、結果単身となられる方もおられるでしょうし、あるいは病識が全くなくて、頑としてヘルパーさんなり訪問看護さんなりの介入を拒否しているような場合で、更には清潔の類いが全く成り立ってなくて、診察に来るとほかの患者さんが待合から逃げていくような感じだとか。

そのような場合、無論認めることになると思うんですけれども、そういったことは全くなしで普通に単身生活が援助なしにできておられるような方の場合は、仮に先ほどの生活能力(3)(4)で出ていても、そこには矛盾があるかなと思って診ていくようなこともあったりします。そんなところですけれども。

就労の可否

障害年金の審査における就労の可否と、昨今の状況を後藤構成員(新潟県認定医)が解説しています。

障害者が働ける環境が整備されたこと

もう私も20年以上認定医をしておりまして、最初のころ、精神障害、知的障害で就労していてある程度収入があるというのは極めて少なかったんですね。

そこがこの障害認定の問題になって、この診断書が改定されたように、最近はやはり障害雇用、それから一般就労もありますし、就労支援A、B等が整備されてきて、そこがやっぱり判断しなくちゃいけなくなってきたなという、それは近年の問題だという気がいたします。

ですから、以前はだから、働いているから不支給と、もうほぼ、私経験がなかったと思います。

障害者雇用の東西差

それは、多分そこがさっき言った、ちょっと西と東の違いのような気がしています。西のほうはかなりそういう障害者雇用とかいろいろなところが整備されるのが早かったんではないかというふうな感じを持っていますね。東京もそうなんですけれども。

障害年金申請の重みが変わったこと

そういうところを含めて、青木先生の意見書にもあったみたいに、働くと障害年金を切られるよというのは最近のことではなく、最近はあんまり言われない。

むしろ昔のほうが年金を申請するときに、これはもう一生スティグマ押されちゃうものだというふうに解釈して踏み切らなかった人たちが随分いたというふうに思っています。

ところが、最近はむしろ本当に軽くても、うつ病の方でも申請するというふうになってきたので、いろいろな2級判定の問題が出てきたのかなと思います。

社会保険加入が一つの目安

その際に僕らが言っていたのは、2、3年継続して働いて社会保険がとれるようにならなければ、年金は止められないよという形でソーシャルワーカーとか私たちは説得というか、出してもいいよというふうにむしろ言っていた気がします。

ですから、今でも私の考えとしては、やっぱり社会保険がとれて2、3年もう本採用で継続するぐらいじゃないと判定の材料にはならないのではないかというふうに考えております。

ちなみに、健康保険と厚生年金のセットである社会保険の加入条件は、下表のとおりです。

1か月の所定労働日数 一般社員の概ね4分の3以上
1日又は1週の所定労働時間 一般社員の概ね4分の3以上

4月24日(金)の「精神・知的障害の等級判定」に関する専門家会合は傍聴者募集中!

来週開催される、「精神・知的障害に係る障害年金の認定の地域差に関する専門家検討会(第3回)」は一般の傍聴ができるので、関心がある方が申し込んでみてはいかがでしょうか?

日時 平成27年4月24日(金)17:30〜19:30
場所 厚生労働省専用第21会議室(東京都千代田区霞が関1丁目2番2号)
議題 (1)関係団体からのヒアリング
(2)障害認定の地域差に関する調査の追加分析について
(3)等級判定のガイドラインの考え方について
申込〆切 平成27年4月22日(水)12時必着

▼「傍聴希望申請書」のダウンロードとFAXによる申し込み方法の詳細はこちら。

www.mhlw.go.jp