はじめに
2015年4月24日に厚生労働省で障害年金に関する専門家検討会の第3回が開かれました。
配布された資料がPDFで公開されたので、本稿ではこの中の一つである「(資料5)障害厚生年金の障害認定に関する調査(PDF:648KB)」の内容を抜粋して紹介します。
なお、第1回検討会の資料として公開されたものをまとめた記事はこちら。
第1回検討会の議事録の内容は以下の2つの記事で紹介しました。
まず、厚生労働省側からの精神障害年金審査に関する問題の背景説明の部分を取り上げた記事がこちらです。
専門家として検討会に招集された認定医(障害年金の審査を担当)の声をまとめたのが、こちらの記事です。
障害厚生年金も精神障害の審査は厳しい
ちなみに、「精神障害年金の審査基準に地域差があるのでは?」と話題になっているのは、各都道府県ごとに審査を行っている障害基礎年金についてです。
この記事では、初診日に会社勤めをしていた人などが申請する障害厚生年金(日本年金機構本部で審査)に関する平成24年度分のデータを取り上げます。
対象データ | 申請者全てではなく、サンプル抽出されたもの |
---|---|
決定 | サンプル内で「1〜3級で受給」または「不支給」が決定された総数 |
不支給 | サンプル内で不支給(つまり3級の審査に通らなかった)の件数 |
精神障害で申請されたものが不支給となる確率は23.0%で、明確な審査基準がある身体の障害と比べると、障害年金をもらうことの難しさがわかります。
種別 | 決定 | 不支給 | 割合 |
---|---|---|---|
精神障害 | 152 | 35 | 23.0% |
肢体の障害 | 126 | 3 | 2.4% |
内部障害 | 119 | 8 | 6.7% |
外部障害 | 31 | 2 | 6.5% |
合計 | 428 | 48 | 11.2% |
社会参加できている人が障害厚生年金をもらうことは難しい
精神や知的で障害年金を申請する際に重要視されるのは、診断書の裏面にある2つの項目とされています*1。
診断書での位置 | 項目名 | 評価方法 | 検討会での略称 |
---|---|---|---|
裏面右側 | 日常生活能力の程度 | 障害の程度を5段階 | ADL |
裏面左側 | 日常生活能力の判定 | 7つの生活場面を4段階 | ABCD評価 |
審査にあたり認定医が最初に確認するのは診断書右側にある「日常生活能力の程度」です。障害の程度が軽い方から順に(1)〜(5)のレベルが設定されており、簡単な目安を家庭生活と社会生活に分けてみました。
番号 | 家庭生活 | 社会生活 | 決定 | 不支給 | 割合 |
---|---|---|---|---|---|
(1) | - | 普通にできる | 4 | 3 | 75.0% |
(2) | 普通にできる | 援助が必要 | 27 | 16 | 59.3% |
(3) | 単純な日常生活はできる | 対人交流が乏しい等 | 70 | 16 | 22.9% |
(4) | 身の回りのことも多くの援助 | 発言内容が不適切等 | 43 | 0 | 0.0% |
(5) | 常時援助が必要 | 通院に付添が必要等 | 7 | 0 | 0.0% |
未記入 | 1 | 0 | 0.0% | ||
合計 | 152 | 35 | 23.0% |
上の表の不支給割合を見ると、(1)や(2)のように何らかの形で社会生活が成り立っている人が障害年金をもらえる確率は半分以下であることがわかります。
自発的な生活能力が残っている人は障害年金3級に該当しない?
日常生活能力の判定(通称: 4段階ABCD)は、日常の7種類の場面を4段階で評価します。例えば、食事の場面なら以下の項目が並び、下の2行にある「できない」が今回の調査対象となった「重い判定」です。
配膳などの準備も含めて適当量をバランスよく摂ることがほぼできるなど。
- できる
- 自発的できるが時には助言や指導を必要とする
- 自発的かつ適正に行うことはできないが助言や指導があればできる
- 助言や指導をしてもできない若しくは行わない
「できない」や「自発的にはできない」という重い判定の個数が0〜3個程度だと、審査を通過しない確率がかなり高いことがわかります。
重い判定の個数 | 決定 | 不支給 | 割合 |
---|---|---|---|
0個 | 26 | 16 | 61.5% |
1個 | 19 | 9 | 47.4% |
2個 | 10 | 3 | 30.0% |
3個 | 17 | 3 | 17.6% |
4個 | 12 | 2 | 16.7% |
5個 | 18 | 1 | 5.6% |
6個 | 14 | 1 | 7.1% |
7個 | 36 | 0 | 0.0% |
合計 | 152 | 35 | 23.0% |
ちなみに、「1級と2級しかない障害基礎年金より、3級がある障害厚生年金の方が審査基準が厳しい」という意見が第1回検討会の議事録にもありました。
参考: 障害年金は働くと支給停止になるのか? -専門家検討会の議事録から-(その2:審査認定医が語る具体的な評価基準) - kukkanen’s diary
診断書の左右の項目の総合評価によるマトリックス
日常生活能力に関する2つの基準「程度」と「判定」が、実際にどうように評価されているのかは以下の2つの表をご覧ください。
重い判定が3個以下 | 重い判定が4個以上 | |||||
---|---|---|---|---|---|---|
程度5段階 | 決定 | 不支給 | 割合 | 決定 | 不支給 | 割合 |
(1)軽い | 4 | 3 | 75.0% | 0 | 0 | - |
(2) ↓ | 26 | 25 | 57.7% | 1 | 1 | 100.0% |
(3) ↓ | 37 | 13 | 25.1% | 33 | 3 | 9.1% |
(4) ↓ | 4 | 0 | 0.0% | 39 | 0 | 0.0% |
(5)重い | 0 | 0 | - | 7 | 0 | 0.0% |
未記入 | 1 | 0 | 0.0% | |||
全体 | 152 | 35 | 23.0% |
1以上2未満 | 2以上3未満 | 3以上4以下 | |||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
程度5段階 | 決定 | 不支給 | 割合 | 決定 | 不支給 | 割合 | 決定 | 不支給 | 割合 |
(1)軽い | 3 | 3 | 100.0% | 1 | 0 | 0.0% | 0 | 0 | 0.0% |
(2) ↓ | 15 | 10 | 66.7% | 12 | 6 | 50.0% | 0 | 0 | - |
(3) ↓ | 3 | 1 | 33.3% | 56 | 14 | 25.0% | 11 | 1 | 9.1% |
(4) ↓ | 0 | 0 | - | 14 | 0 | 0.0% | 29 | 0 | 0.0% |
(5)重い | 0 | 0 | - | 0 | 0 | - | 7 | 0 | 0.0% |
未記入 | 1 | 0 | 0.0% | ||||||
全体 | 152 | 35 | 23.0% |
診断書右側の「判定」で社会生活ができているとされる(1)や(2)で、なおかつ左側の生活の場面別の「程度」で重い判定が少ない人が障害年金を受給するのは難しいことがわかります。
働いていると障害年金がもらえないのは本当?
発達障害を含めた精神障害者の間では、よくこんな話を耳にします。
「働いていると、精神障害で年金をもらえない」
「復職すると、障害年金が打ち切られる」
「障害者枠や作業所なら、等級が障害年金3級に下がる」
以下の内訳を見る限りでは、なんらかの形で働いている場合は障害年金を受給できる確率は半分以下になります。
決定 | 不支給 | 不支給割合 | 就労者内の構成割合 | |
---|---|---|---|---|
一般雇用 | 35 | 18 | 51.4% | 77.1% |
障害者雇用 | 27 | 15 | 55.6% | 2.9% |
就労支援施設 | 1 | 0 | 0.0% | 5.7% |
その他 | 5 | 3 | 60.0% | 14.3% |
就労の記載なし | 117 | 17 | 14.5% | - |
総数 | 152 | 35 | 23.0% | - |
下表は、診断書右面にある5段階の「程度」と就労の有無の相関です。
就労記載あり | 就労記載なし | |||||
---|---|---|---|---|---|---|
程度5段階 | 決定 | 不支給 | 割合 | 決定 | 不支給 | 割合 |
(1)軽い | 2 | 1 | 50.0% | 2 | 1 | 50.0% |
(2) ↓ | 14 | 6 | 42.9% | 21 | 11 | 52.4% |
(3) ↓ | 57 | 10 | 17.5% | 53 | 12 | 22.6% |
(4) ↓ | 36 | 0 | 0.0% | 30 | 0 | 0.0% |
(5)重い | 7 | 0 | 0.0% | 6 | 0 | 0.0% |
未記入 | 1 | 0.0 | 0% | - | - | - |
合計 | 117 | 17 | 14.5% | 112 | 24 | 24.4% |
一人暮らしは障害年金審査で不利?
同居者有無の評価も、就労と同様に障害年金の審査を大きなウェイトを占めると考えられています。
以下のデータを見てもやはり、障害の程度が軽く、一人暮らしができている精神障害者の障害年金は高確率で不支給となっています。
同居あり | 同居なし | |||||
---|---|---|---|---|---|---|
程度5段階 | 決定 | 不支給 | 割合 | 決定 | 不支給 | 割合 |
(1)軽い | 2 | 1 | 50.0% | 1 | 1 | 100.0% |
(2) ↓ | 21 | 11 | 52.4% | 5 | 4 | 80.0% |
(3) ↓ | 53 | 12 | 22.6% | 12 | 3 | 25.0% |
(4) ↓ | 30 | 0 | 0.0% | 5 | 0 | 0.0% |
(5)重い | 6 | 0 | 0.0% | 0 | 0 | - |
未記入 | 1 | 0 | 0.0% | - | - | - |
合計 | 112 | 24 | 24.4% | 23 | 8 | 34.8% |
初診日不明による却下割合
年金の納付期間や免除の状況から、障害年金を申請する資格がある人でも精神科を初めて受診した日の記録を証明できず、申請を断念する方が多いと聞きます。
障害厚生年金審査に際して、「初診日不明」で却下になった割合は意外に少ないので、カルテは廃棄されても診察券が残っていたなど、なんらかの形で初診日を証明している人も多そうです。
調査数 | 却下件数 | 却下割合 |
---|---|---|
428 | 6 | 1.4% |
国家公務員などの障害共済年金は、初診日が自己申告だけで審査を進めることができていたことが不公平だと話題になり、是正される運びとなりました。
以上、検討会で配布された障害厚生年金に関する情報を簡単に紹介しましたが、その他の資料も「障害年金」カテゴリの記事としてアップする予定です。
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