はじめに
障害は診断名それぞれの原因や症状に違いがあれど、いずれも時には自殺まで引き起こしてしまうほど、当事者の人生に深刻な影を落とします。
厚生労働省が公開している障害年金に関する資料を読むと、どの精神障害でも1級に該当する状態の定義があります。
ちなみに、気分障害とは双極性障害やうつ病などを指します。
等級 | 障害の種類 | 障害の状態 |
---|---|---|
1級 | 統合失調症 | 高度の残遺状態又は高度の病状があるため高度の人格変化、思考障害、その他妄想・幻覚等の異常体験が著明なため、常時の援助が必要なもの |
気分(感情)障害 | 高度の気分、意欲・行動の障害及び高度の思考障害の病相期があり、かつ、これが持続したり、ひんぱんに繰り返したりするため、常時の援助が必要なもの | |
2級 | 統合失調症 | 残遺状態又は病状があるため人格変化、思考障害、その他妄想・幻覚等の異常体験があるため、日常生活が著しい制限を受けるもの |
気分(感情)障害 | 気分、意欲・行動の障害及び思考障害の病相期があり、かつ、これが持続したり又はひんぱんに繰り返したりするため、日常生活が著しい制限を受けるもの | |
3級 | 統合失調症 | 残遺状態又は病状があり、人格変化の程度は著しくないが、思考障害、その他妄想・幻覚等の異常体験があり、労働が制限を受けるもの |
気分(感情)障害 | 気分、意欲・行動の障害及び思考障害の病相期があり、その病状は著しくないが、これが持続したり又は繰り返し、労働が制限を受けるもの |
出典:(資料2)国民年金・厚生年金保険障害認定基準〔第8節/精神の障害〕(PDF:537KB)|精神・知的障害に係る障害年金の認定の地域差に関する専門家検討会審議会第1回 |厚生労働省
上の表を見る限りでは、診断名による等級の差異はなく、あくまでもそれぞれの患者の状態を評価することになっています。
ですが、皆さんも薄々は気づいているかと思いますが、やはり疾病の種類によって、障害年金審査における重みが違うようです。
精神障害年金における各等級間の境界線上にある事例
つい先日、精神障害年金の審査基準に関する専門家会合が催され、そこで配布された資料が公開されました。
初診日に厚生年金に加入していた人が申請できる厚生障害年金の審査通過率を取り上げた記事はこちらです。
非公開で行われた第2回検討会で取り上げられた精神障害*1に該当する決定事例は以下の件数があります。
等級 | 件数 |
---|---|
1級該当(2級該当との境界) | 2 |
2級該当(1級該当との境界) | 5 |
2級該当(2級非該当との境界) | 5 |
2級非該当又は3級該当(2級該当との境界) | 6 |
3級該当(3級非該当との境界) | 1 |
3級非該当(3級該当との境界) | 1 |
合計 | 20 |
精神障害年金1級は統合失調症を想定?
日常生活能力の程度が(5)で入院中でも、統合失調感情障害は波があって予後がよいとされていること、隔離や拘束のないことを考慮して、2級と考える。
上記の「統合失調感情障害」は、診断書に記入するICD-10コードのF25.0〜F25.9のいずれかで、一般的な「統合失調症」(F20.0〜F20.9)との関係性は以下の階層構造で分類されています。
分類 | 診断書ID | 分類表記 |
---|---|---|
F20 | 統合失調症 | |
F21 | 統合失調症型障害 | |
F22 | 持続性妄想性障害 | |
F23 | 急性一過性精神病性障害 | |
F24 | 感応性妄想性障害 | |
F25 | 統合失調感情障害 | |
F25.0 | 統合失調感情障害躁病型 | |
F25.1 | 統合失調感情障害うつ病型 | |
F25.2 | 統合失調感情障害混合型 | |
F25.8 | その他の統合失調感情障害 | |
F25.9 | 統合失調感情障害詳細不明 | |
F28 | その他の非器質性精神病性障害 | |
F29 | 詳細不明の非器質性精神病 |
出典: ICD10分類 > F00-F99 精神及び行動の障害 > F20-F29 統合失調症,統合失調症型障害及び妄想性障害
診断書の記載内容が乏しいが、病歴申立書に記載された症状や診断書の発育歴等から、うつ病としてのリスクが高いことが分かり、診断書の内容にも合っているので2級と考える。
検討会に招集された認定医(障害年金の審査担当)の発言内容から、「うつ病」や「統合失調症感情障害」といった純粋な統合失調症とは異なるものを1級の対象から除外していることがわかります。
日常生活能力の程度が(5)でも、日常生活能力の判定で軽度の項目が多く、残遺状態で自閉的な生活であるが概ね穏やかに過ごせているものは、2級と考える。
上記の事例では診断名を明示していませんが、おそらく統合失調症で妄想などが残っていても、現状の生活困難度で等級が決まることを意味しています。
1級に関する議論では入院状況について言及されており、新しいガイドラインで等級判定の際に考慮する要素として、以下の内容が提案されています。
- 隔離・拘束の有無やその期間
- 院内での病状の経過
- 入院の理由
つまり、精神障害年金1級は人格荒廃まで重症化して、制限の多い入院生活を継続しているか、在宅でも寝たきり状態の統合失調症を想定しているようです。
![]() マンガでわかるはじめての統合失調症 |
安易な診断が双極性障害の重みを下げている現実
双極性障害の診断だが、接客の仕事ができていることなどから、2級非該当と考える。近年、双極性障害という診断がすぐに出てくるようになっている。
気分の波があることで知られている双極性障害ですが、生活が破綻するような激しい躁状態がない2型の場合、調子を取り戻した時に働いている人も多いかと思います。
障害等級は収入(把握できる場合は月収よりも年収)を考慮する。
上記の基準で考えると、安定的に継続して働けなくても、ある程度の年収が確保できるのなら、評価は低くなるということでしょう。
およそ10年前の障害年金審査における各疾患の評価
2006年に書かれた精神科医のブログによると、それぞれの障害で年金審査を通る見通しは以下のようになります。
2)躁うつ病
病状が重ければ受給可能。ほぼ統合失調症に同じ。
3)うつ病
感情障害でも単にうつ病の場合、受給は極めて厳しいと言わざるを得ない。なぜなら、うつ病は治る病気だからだ。うつ病でも、幻覚を伴うとか非定型精神病の色彩があるときはこの限りではない。僕の場合、過去に「うつ病」で申請したことは一度もない。
精神疾患の障害年金(その3)|kyupinの日記 気が向けば更新 (精神科医のブログ)
最近は社会保険労務士や情報商材屋が宣伝文句として、「うつ病でも障害年金を受給できます!」などと喧伝していることから、実際の受給者数も増えているのは事実なのでしょう。
双極性障害が統合失調症と同列に扱われるのは、激しい躁状態で常軌を逸した行動をとり、措置入院などの処遇を受けるようなレアケースです。
SNSのプロフィール欄や闘病ブログでよく見かける、「うつ病で治療していたら、双極性障害に診断変更された」というパターンの多くは双極性2型であり、これは一種の流行であり、障害年金の審査でもそういう目で見られてしまうことを否めません。
![]() 双極性障害の時代 マニーからバイポーラーへ |
*1:知的障害と発達障害は別途事例が公開されています。