自閉症スペクトラムは他人の喜怒哀楽に共感できないのか?
自閉症スペクトラムにおける表情模倣の研究結果が発表されて、話題となっていました。
表情模倣とは
表情模倣とは、人間同士の意思疎通において自然に行われる身体現象の一つで、社会性の障害とされている自閉症スペクトラム当事者が苦手な行動とされています。
- 他者の表情を見た際に自発的に同じ表情を示す現象
- 表情を介したコミュニケーションを円滑にする行動
表情模倣の測定結果
京都大学が定型発達15人と、知的障害がない自閉症スペクトラム15人の表情模倣の頻度を比較したグラフを見ると、明らかな違いがあります。
自閉症スペクトラム障害で目に見える表情模倣の障害 — 京都大学
さらに、自閉症スペクトラム群の中でも、表情模倣の頻度が少ないほど、社会性の障害が強いことを表す相関図も公開されました。
http://www.kyoto-u.ac.jp/ja/research/research_results/2015/documents/150428_1/02.pdf
この文献を報じているニュースでは、模倣の頻度しかふれられていないので、自閉症スペクトラムという障害が「他人の表情を理解することが難しいのか?」または、「 他者の感情を知っても、自分の表情でそれを示すことが難しいのか?」あるいは、その両方が困難であるのかがわかりませんが、発表した研究者の言葉はこう結んでいます。
意図的に表情の真似をすることで表情模倣の障害を補えるかどうかについても検討する予定です。
これらの研究を進めることで、ASD の社会性の障害に対する効果的な介入方法の確立に役立つ知見が得られると考えます。
他者を真似ることと、他者に影響されることは違うの?
表情模倣について知った時に、当事者やその親がよく語る「自他区分」との関係性が気になりました。
自他区分の定義は、アスペルガー症候群の自助会を主宰している方のブログに図解があったので、それを紹介します。
自他区分とは
定型発達、つまり発達障害者ではなく標準的な成長をしている方は、下図のように自分と他人との境界線が明確にあるそうです。
したがって、他の人から寄せられるさまざまな声は、参考情報として自分の思考に役立てたり、適当にスルーしたりできます。
自他の境界線があいまいになることの問題
自閉症スペクトラムでは、定型発達のように自他区分を意識することが難しく、外野の声を諸に受けてパニックとなります。
これは、他人からかけられる言葉などに限らず、外部刺激全般に弱く、聴覚過敏や視覚過敏という症状となって現れます。
発達障害特性がない人でも、うつ病などでストレス耐性が低下している状態で、認知の歪みが生じるのは、自他を区切るバリアが脆弱化していると考えられます。
一般的に、アスペルガーは「空気が読めない」とか「他人の気持ちがわからない」と評されます。しかしながら、自他区分という概念で考えると、境界線がゆるいことから、他人の情報が自分まで届いていることは確かなのです。
障害 | 特徴やイメージ | 自他区分で考えると |
---|---|---|
アスペルガー | 空気が読めない | 酸素過多 |
自閉症 | 自分の殻に閉じこもっている | 自分を守る殻がない |
模倣することで、自他区分が形成される
では、なぜ自閉症スペクトラム当事者は、自分の内側にまで届いている他者からのメッセージを、相互コミュニケーションに役立てることができないのでしょうか?
例えば、相対している人の笑顔に笑顔を返す、悲しんでいる人に共感の意を表情で伝えるといった、定型発達者が自然に行っているアクションです。
その答えが、この本の中にありました。
生まれたばかりの赤ん坊は自他の区別がついていません。
赤ん坊は、最初は自分の顔すら認識できません。鏡を見ても、これが自分の顔だということがわかりません。それがだんだんと、この顔が自分の顔だとわかるようになり、人の顔と区別がつくようになります。
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しばしば、「発達障害は生まれつきの脳の問題」として語られますが、自他区分の有無で見た場合、健常者も自閉症スペクトラムもスタート地点は同じです。
自閉症スペクトラム児者における自他区分の問題について考えてみる(2) | アスペルガーライフblog
前述したアスペルガー当事者のブログでも指摘しているように、言語や生活習慣といった知識を取り入れる際に、自他を分けるバリアが柔らかい方が急速にそれを吸収します。
この特性を前提として、子どもは親や兄弟の行動を真似ることにより、生きる術を身につけます。
人の真似をすることは、他者が自分の中に入ってくることにもなります。
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ここまでは、定型も自閉症スペクトラムも一緒です。
模倣することで、自分の中に他者のいろいろなものを取り入れながら、他者と自己とは違うものだということが、脳の中に自然に入ってくるわけです。つまり、人は模倣を通じて、自己と他者を認識するようになるといえるのです。
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上記に抜粋したように、自分の脳内に「他者を自己とは違うもの」として受け入れられるかどうかが、定型との分岐点です。
模倣を通じて、自己と他者があるということがわかってくることにより、共感脳がきちんと発達していくことになるのです。
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冒頭に紹介した研究者の言葉にあるように、意図的に表情を模倣する訓練をすれば、それが社会性獲得につながるというのは、自然の摂理にかなった方法論であることがわかります。
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